AIweb publish 電子出版制作費

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多くの出版社が書籍の電子化に際して、制作費用を出そうとしません

電子出版は、どちらかといえば、見せ方が映像の技術になります。いままでの割り付け、エディトリアル・デザイン、装幀ではとても無理です。もちろん、タグ付けりゃいいんでしょレベルの話じゃ問題になりません。
html5/CSS3が標準になれば、電子出版の制作には、さらにリッチコンテンツが求められます。紙の書籍・雑誌制作の経験技術はまったく通用しないのです。

にもかかわらず、出版サイドの感覚はいまだに、Indesignの既存データをPDFやePubでジェネレートすればいいんじゃないか、ぐらいにしか考えていません。

これからあるべき電子出版の制作費用

電子出版の費用を見ると、キンドルもアップルも流通経費は30%なので今までと同じです。残り70%をどう案分するかです。単にテキストデータを流し込んで、著作者が自ら売るのなら、すべて印税としてもいいのです。そうなるとイニシャルコストがかかりませんから、出版社は必要なくなります。
アマゾンも自費出版に意欲的なようです。規約には価格について〈This list price must be at least 20 percent below the lowest physical list price for the physical book〉とあります。この物理書籍と言ってるのは既存書籍を指すのではなく、たぶんプリント・オン・デマンドのことでしょう。

テキストだけでなく、映像表現も含め電子書籍に最適化、充実したコンテンツを作るとしたら、その部分に制作費が必要になります。電子出版の場合、いままで雑費扱いだった編集・制作費が重要になるのです。
この場合、紙ベースの物理書籍で30%かかっていた印刷・製本代が不要になるので、それを充てればいいはずです。返本がなくなれば、従来以上の利益は見込めます。

ですが、旧態依然の出版社はそうは考えません。手持ちのデータを安直に使い回して儲けようという魂胆ですから、必要な制作費を出そうとしません。片手間レイアウトの感覚を持ち続けているのです。
My Life After MIT Sloanさんの「日本の出版社が直面するイノベーションのジレンマ」が実に示唆的な内容です。過去の成功体験にしがみつき、制作費を出し惜しむ日本の出版社は、滅びてしかるべき存在です。

従来の紙出版の制作費用は雑費扱い

紙の書籍はある程度の売れ行きを見込んで、印刷部数を決定し印刷製本します。先行投資が必要になるわけです。そこに出版社の存在意義があると言われていました。
紙出版の費用はどの位かかるのでしょうか。
本の価格は部数によって決まり、また原価率も異なります。割合にすることが難しいのですが、一般に印刷・製本・紙代が30%、取次・書店の流通経費が30%、印税・編集・制作費が20%(編集=企画、原稿依頼、取材、原稿整理、校正など。制作=撮影、イラスト、装幀・レイアウトなど)とされます。

雑誌は印税ではなく原稿料となり、書籍に比べ取材費など編集・制作費用の割合が高くなります。その分は広告料で補います。広告料金も部数に応じて変わりますので、雑誌は10万部が採算点といわれます。
編集タイアップもずいぶんありました。1冊丸ごとペイドパブや、通販カタログと見分けのつかない雑誌。果ては通販カタログが雑誌の体裁をとったもの、雑誌と名乗りながら実態は通販カタログ(こういうものは、取次を通さず〈通せない〉に直接購読です)まであります。

書籍の価格と内容は関係ありません。必要な本ならば高くても買う、という面はありますが、内容が高級だから高いというわけじゃない。
あまり売れないと、印刷・製本の単価は非常に高く、固定費の編集・制作費と組版・製版代等、初期費用の占める割合が多くなります。医学書等、専門書の値段が高額なのは、売れ行きを見込めず少部数しか刷れないので、原価が高いためです。

問題は、流通経費のうち、返本が出版社負担になることです。返本率は40%になるといわれています。返本された書籍は、カバーを掛け替えて、また取次に出すこともありますが、多くは断裁して古紙として売るしかありません。とくに雑誌はすべて断裁です。資源の無駄ですね。
売れ行きを過剰に見込んで大部数を刷れば、印刷・製本の単価は安いのですが、返本の費用と倉庫代が大変になります。

印刷に関して、部数が増えるだけ経費が嵩むのは、紙代他の資材費だけです。印刷代の単価は下がりますし、組版(CTPは出版社がデータを作る)・製版代は初期にかかるだけ、増刷時はほとんど無視していい額です。
印税は出版(印刷)部数に応じて増えますが、編集・制作費・画稿料は固定で、最初に必要なだけです。初めに多額の費用がかかるのが、紙の出版の特徴です。反面、増刷増刷で順調に売れていけば儲かるものです。

ですから従来の出版は、印刷代・紙代の心配をしていればよかったのです。レイアウトぐらいは編集者が片手間でやることも多かったし、制作費なんて最初に少しかかるだけでした。(ページメーカーがあれば、こんなの簡単にできるとぼやいてた、ある編集プロダクションの人がいました。学生アルバイトで入って、そのまま社員になったと思ったら、いつの間にか編集長でしたね)

※定価2000円の書籍が実売1万部とすると、粗利500万円(25%)。定価1000円の書籍が実売250万部で、粗利10億円(40%)くらいです。紙の本はベストセラーになればなるほど、出版社の利益が増えます。

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